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エスキス アムール

第47章 教え込まれたカラダ





「はるかちゃんのこと、好きだったよ。
ここに来て、あの頃の気持ちをたくさん思い出した。

けど、でも、もう…あの頃には戻れない。

時計があるってわかった今、もう俺は戻らないわけにはいかない。
あいつが俺のこと手放してるわけじゃないってわかったから。
…俺、あいつがいないと生きてけないんだ。」


情けないけど…


そう、まっすぐ私を見て告げる大野さんに、もう私の入り込む場所なんて、もうとっくになかったのだと知った。

けれど、あんな別れ方をしたから、彼の心の中は全く整理がついていなくて、それを木更津さんは整理させるために私のところに彼を置いて行ったのだろう。


大野さんは自分で私のところに来たのではなくて、木更津さんが私の家に届けたんだ。

なんとなくそう気がついて、心の中で苦笑いをした。



これは、もう一度大野さんと繋がるために神様が与えてくれたチャンスなのではなく、

彼が私から、私が彼から卒業するための、木更津さんが彼にとってどれほど重要か確かめさせるための、木更津さんが与えた、試験だったのだ。



きっと、それに、絶対に戻ってくるなんていう100パーセントの確信は無く、一か八かだったのだと思う。
もしかしたら、彼がコロリと気持ちを変えてしまうことだって考えたはずだ。


もともと女性が好きだったのだから。


それでも決行するなんて、私だったら、考えられない。
少しでも彼の心に他の人の気持ちが残っていてもいいから、側においておきたいと思ってしまうだろう。

しかし、木更津さんはきっと、全てが手に入らないのなら、そんなものはいらないというとっても極端な考え方なのかもしれない。


そうだ。
あんなに背中にキスマークをたくさんつける人なのだから、そうに決まっている。
すごく独占欲が強い人なのだ。


けれどそこまでしてでも、彼の全てを、彼の自分に向く気持ちさえも独り占めしたいと思う彼の愛情は恐ろしく犯罪的に大きく、一度彼を捨てた私が敵うわけがない。


私が飛行機に乗って逃げた時から、もうこうなることは決まっていたのだと悟った。











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