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エスキス アムール

第47章 教え込まれたカラダ



「あ…これ、置きっ放しになってましたよ」

「…ありがとう。
ちょっと朝見たんだ。
だいぶ前の雑誌なんだけど…」



そう話す彼に変わった様子はない。
ならばと、彼の名前を出してみることにした。



「この人、木更津さん。
三嶋さんが秘書している社長さんですよね?
一度、私のお店に接待できました。」

「……、ああ、そう言ってたよね。
木更津、さん、ね。」




知らないふりだろうか。
大野さんは何も反応せずにご飯を口に頬張った。



「知り合いですか?この方と」

「…まあ、ね。知り合いだよ」

「今、ニューヨークにいるみたいですね」


あまり、良い返答をくれない彼に、つい、突っ込んだ言い方をしてしまった。

何事もなかったかのように、目線をこちらには合わせずに、咀嚼を続けていた大野さんだったけど、

その私の一言に、咀嚼するのを止め、表情はガラリと変わって、眉を寄せた。



その表情にしまったと思うけど、きっともう遅い。



「どうして知ってるの?」

「…え…?」

「いくら一度来店した人だからって、現状まで知ってるかな?」

「け、携帯で検索したんです。
どんな人か気になったから…」

「どうして気になったの?」



大野さんにしては随分突っ込んでくるなと思った。
私を疑って、試しているような顔。

まるで仕事をしているときの顔だ。
誰かと取引するみたいな時の顔。
プライベートの顔ではない。



正直言って、怖かった。
すべてを見透かされているような感覚になる。



「あの…ただ気になったから…」

「はるかちゃん、嘘はつかないで。わかるから。」



こうなった時の大野さんは、誰にも止められないのないのだと、仕事をし始めたとき、要さんが言っていた。


プライベートの事になると、全く人の嘘も見破れないのに、仕事の事に関しての勘は誰よりも鋭くて、敵にしたら怖いと。

今は仕事ではないはずなのに、その勘が働いているようで、彼の目つきは鋭く私を見据えていた。









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