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エスキス アムール

第41章 思わぬ再会




それから俺たちは毎週休みの日になると、公園に集まって色々なことを話した。


自分の生い立ちから会社の話、
いろんなこと。
とはいっても、自分が話すばかりだったけど。


土日に集まろうと提案したのは自分の話をしたかったからじゃなくて、
彼女のことを知りたかったからなのだけど、

彼女は自分の話をしたがらなかった。
彼女のことを聞くと、彼女は答えるのを渋った。

どうしてと聞くと、あまり知られたくないと溢す。
話せる過去じゃない。

今までもずっとそうだったと。


そうして生きてきたけど、
一人だけ、自分のことを心配して、気にかけてくれて、過去を受け入れ愛してくれた人が居たことを、彼女は話した。


その日は晴天で澄んだ青空だった。
頑なに自分のことを話したがらなかった彼女が、その青空を見て、懐かしむように話始めたのは意外な出来事で、
俺は驚きながらも耳を傾ける。


自分に心を許してきてくれたのかもしれない、そう思って少しだけ嬉しくなったけど、そうではなかったことは後々すぐにわかることだった。



彼女の秘密はまだあった。



ひとつのスケッチブック。


ある時、見慣れないスケッチブックが目に入った。
他のスケッチブックは外国製のものなのに、
それだけ日本製のものだった。


外国製のスケッチブックに描かれている絵は見せてもらっていたから、そのスケッチブックも見てみたいと思い、

これも見ていい?と、手を伸ばしたときだった。




「それはだめっ!!」


滅多に声を荒げない彼女が、大きな声を出してそれを制止した。

その声に驚いて手を止めると、素早くスケッチブックを奪われる。



「これは……だめなの…」



大事そうにスケッチブックを抱き込む彼女を見て、まだ、もっと、俺の知らない彼女がいるのだということを知った。


そのスケッチブックを見られる人はどんな人なのだろう。
その愛してくれていた人と関係しているのだろうか。
その中にはなにが描かれているのだろう。


なかなか縮まらない彼女との距離にもどかしさを募らせるばかりだった。






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