テキストサイズ

20年 あなたと歩いた時間

第5章 20歳

「…そろそろ行こうか」

最初から最後までウーロン茶で通した流星が
涼しい顔をしておひらきを提案した。

「あー、飲み過ぎたあ」

いつものように、真緒は豪快に飲み、
しゃべって、酔った。
要が引きずるようにして店を出た。

「次は夏休みだね。私達も帰るから」
少しいい気分になってほてった体に、
夜の風が気持ちよかった。
流星が空いているほうの手で、私の左手を
握った。

「おう。じゃあな!無理すんなよ…流星。のぞみも!」
「ん。おまえらもな」
「あんま、頑張んなよ」
「…大丈夫だよ」
「ばいばーい!のぞみ、大好きー!」
「はいはい」

口々に言いたいことを言い合って、
真緒たちが見えなくなると、
流星は私の手を、握ったまま歩き出した。
湿気を含んだ夜の空気が、
私と流星の間を流れていく。

「帰ろうか」
「うん」

一緒に暮らし初めてから今日まで、
気づいたのに、流星には
問いたださなかったことがいくつかある。
今日、それがまた増えた。

「元気そうだったな、あいつら」
「…流星は?元気?」
「なんで?」

質問を、質問で返してくる時は
流星が苛立っている時か、何か悩みが
あるときだ。
そんなとき、私に対して少し意地悪になる。
そんなサインに、私は高校時代から
気付いていた。

「明日、バイト何時まで?」
「夜まで」
「そっか。じゃあ私、買い物行ってご飯作ってるね」
「そんなことしなくていいから、自分の勉強しろよ」

あまりにも冷たい言い方に、
一瞬呼吸が不自然になった。
繋いでいた手が離されて、
半歩前を歩く流星の背中が、とても遠くに
見えた。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ