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妖魔滅伝・団右衛門!

第6章 妖魔滅伝・嘉明!

 
「八千代、辞世の句を読め。武士ってのは、そういうもんだ」

「句……ですか」

 団右衛門に促され、八千代は頭を悩ませる。だがすぐには浮かばないのか、自らの両腕を組み眉間にしわが寄せて考え込んだ。

 そして思考は、突然開いた部屋の襖により遮られる。足を引きずりながら現れたのは、嘉明だった。

「足軽が勝手に切腹を命じるなど、どこの家でも聞いた事がないぞ」

「嘉明様……」

「八千代。理由はどうあれ、お前は敵前逃亡と見なされても仕方あるまい。お前は志智に帰還後、差控と処す。悠久は団に命ぜられて町へ向かったのだ、馬番という立場もある、今回は注意だけで収めよう」

 嘉明はそれだけ言うと、すぐに引き返そうとする。が、八千代は慌てて嘉明に縋り、悲愴な表情を浮かべた。

「お待ちください! そのような軽い刑では、ぼくの気が済みません! 嘉明様のお役に立てないなら、ぼくなんて死んだ方が……」

「決定に不服があるなら、このまま京に悠久と二人で残るといい。謹慎か出奔か、自分の意志で決めろ」

 八千代を振り払うと、嘉明は振り向かず去っていく。
 

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