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妖魔滅伝・団右衛門!

第1章 夜討ちの退魔師団右衛門

 
 暇を持て余しているのならともかく、わざわざ今の状況で悪戯をする意味はない。嘉明が一歩踏み出そうとすると、八千代の細い腕が腰に絡み付いた。

「嘉明様、お待ち下さい! 何か、嫌な予感がします」

「待てと言われても、ここから動かない訳にもいかないだろう」

「しかし、不用意に飛び出て御身に何かあれば困ります。廃寺と言えど、中は仏の加護で守られているはず。一度中へ入りましょう」

 八千代は扉を開き、嘉明を中へと押し込む。その時気付いたのは、嫌な予感の正体。それが何かを嘉明が悟った時には、扉は閉められてしまった。

「……八千代」

 八千代は先程、この廃寺の中から出てきた。外から見た大きさや古さが全く違う、漆の黒と血のような赤に染められた広い空間から。

「お前はいつからその細い腕で、私を無理矢理押し込めるほどに力が強くなったのだ?」

「いつからとは? ぼくはいつも、こんな人間ですよ」

「そうだな、その肉体はいつもの八千代だろう。問題は、宿る魂だ」

 すると八千代は嘉明の肩を突き飛ばし、床に倒して馬乗りになる。押し退けようと体に力を込めるが、腕を押さえる八千代の力は、人間離れしていた。
 

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