
しのぶ
第3章 3・嘘つきの顔
「ならばどうして元康様を大坂に留めるのです。小川家はまだ小山の謀反による影響で疲弊しています。大坂に手を回す余裕はありません」
「小山、ね。あれは輝も残念だったよ。それに――疑問だった。小山も輝と同じく、元康を息子のように可愛がっていたんだ。それがどうして、なんの兆候もなく裏切ったのか」
「さて、どうしてでしょうね。私は小山とやらをよく存じ上げませんので、想像がつきませんが」
その小山を始末した志信は、瞳こそまばたきで隠れるが、一つも心を動かした様子はない。輝元もまた同様で、この場で心を動かしているのは、未だ怒りを収められないジュストのみだった。
「知っているとは思うけど、輝もね、父上を早くに亡くしているんだ。だから、元康の抱えてる気持ちはよく分かる。親も、頼っていた人も失って、心が空っぽになる怖さ……」
すると輝元は立ち上がり、刀を抜いて志信に向ける。それはジュストとは違い、怒りも悲しみもない、無機質な刃。人の命を奪う事にすら何の感情も動かさない、戦場の刃だった。
「でも、元康は輝と一つだけ違った。人生経験が、ね」
