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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第10章 第一部・第二話【赤とんぼ~小紅と碧天~】 心の嵐

 涯(はて)のない蒼穹に吸い込まれてゆくその鳥を見上げ、小紅は眩しい秋の太陽の向こうに大好きだった叔父の笑顔がはっきりと見えたような気がした。
 帰りは随分と気持ちが軽やかになったようで、やはり叔父に相談して良かったと小紅は足取りも幾らか軽く歩いた。長屋の木戸を通り、家の前まで歩いてきた時、隣から女のあえかな声がかすかに洩れてくるのに気づいた。

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