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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第6章 【残り菊~小紅と碧天~】 運命が動き出す瞬間

 小紅はもちろん平然としていたが、内心は冷や汗ものだった。科白がないのが幸いでもあるけれど、ただ黙って歩くだけでも、かなりの重圧だ。
 花散里演じる梅光が優雅かつ大胆に八文字を切って歩を進める毎に客席から声がかかる。
「いよっ、梅光。三田屋」
 梅光は江戸でも知らぬ者のない名女形、その声援も凄まじい。それに混じって、時折、
「碧天っ」
 と、これは女性らしい声がかかる。

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