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BL~中編・長編集2~

第14章 ~番外編③~

「………幸…」

「……んっ…と……っま…」

名前を呼んできつく抱きしめてやると、珍しく俺の名前を呼んで、抱きしめている俺の腕にぎゅっと抱きついてきた幸。

幸が俺の名前を呼ぶなんて…珍しい。 さっきも…幸から俺に抱きついてきたし、帰る時だって、ずっと俺の服を掴んで離れようとしなかった。

「とう、ま…」

「………」

幸と離れていた数分の間に、一体何があったんだ? 幸が来てから何回か外出したけど、こんな状態になったことは一回もなかった。
どうして、こんなに怯えてるんだよ…幸…

「……幸……」

何があったのか…一体、あの数分の間に何が起こったのか…

「…………そろそろ出るか。 のぼせちゃうだろ?」

無言で頷いた幸の体を支えながら湯船から上がり、冷えないように素早く幸の体を拭いてやる。

「………」

『どうしたんだ?』
たったそれだけの言葉が出てこなかった。 聞けなかった。

怖かったんだ。 幸が抱えている闇を知るのが。
俺なんかの手には負えないんじゃないか。 幸のすべてを受け止めてやれないんじゃないか。

俺なんかじゃ…

「………」

幸を救ってやることはできないんじゃないか。って…

「………幸?」

「……………い…」

「?」

幸に服まで着せてやって、脱衣所から出て部屋のソファに腰かけると、俺にピッタリと体を寄せ、隣に座ってきた幸。

本当に、どうしたんだよ…いつもは、自分からくっついてくることなんてないのに…

「……離れ…た、く…ッ…ない…」

「…………」

小さい声で……そう訴えてきた幸。

俺を頼ってくれてるのか。 こんな…お前に何があったのか…怖くて聞けないくらい情けない俺を…

「ん…じゃあ、今日はずっとくっついてような。」

「………ん…」

ごめんな…弱くて。 情けないくらい弱い俺には、お前を抱きしめてやることしかできない。

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