
溺れる愛
第24章 少しずつズレる歯車
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そして次の日。
私は那津の言葉の真意をようやく理解した。
改装工事の現場に来ると、その光景はすぐに目に飛び込んで来た。
「那津さんっ。お昼はお時間ありますか?」
「…ああ、特に用はありませんが。」
「では私のお薦めのお店が近くにありますの。
一緒に行きましょう」
彼女。
那津のかつての婚約者が当然の様に現場にいて
那津の腕に自分の腕を絡ませて
まるで恋人同士の様に振る舞っていて……。
俺の事、信じてほしいって…。
頭では解っていても、目の前でこんな…。
気持ちが着いていかないよ…。
「先輩…あの女、誰ですか?」
菜々子ちゃんが鋭い視線を彼女に送りながら
コソッと尋ねてくる。
『…さぁ…森山社長のお知り合いなんじゃないかしら…』
自分の口から“婚約者”と言う事が凄く躊躇われて
私は返事を濁した。
「……私、あの女嫌いです。
ペラッペラの笑顔で、腹の中で何考えてるか解んないですよ、あの人」
『こら…そんな事言っちゃダメよ』
さすが菜々子ちゃん…。
本当にこの子は人を見る目がある。
じゃあ…私が今、傷付いた顔をしているのも
もしかしたら見透かされているのかしら…。
目の前で、まるで私に見せ付ける様にベタベタと那津に触れる彼女。
沈む気持ちをどこにもぶつけられないまま
午前の工事が終わった。
