溺れる愛
第10章 距離
駅を出てすぐのタクシー乗り場でタクシーを捕まえて乗り込む。
そのまましばらく進むと、景色の良い海辺沿いに出た。
『わぁ…海だ…』
窓の外を見て感嘆の声を洩らす芽依とは対照的に、那津は頬杖をついてボーッと外を眺めていた。
『ねぇ、どこに行くの?』
「着けばわかる」
短く返されるのもいつも通りで、俊哉との差にげんなりしてしまう。
(先輩、今何してるかな…この景色、見せてあげたい)
そんな事を思いながら、ようやく目的地に辿り着いた。
それは先程車内から見ていた海で、
海水浴シーズンの今は人で溢れかえっている。
『……ここ?』
「あぁ。こっち」
砂浜に降りて、那津はスタスタと歩いて行ってしまう。
『ちょっ、待ってよ…!』
(砂に足をとられて歩きづらい…)
ただでさえ人でごった返しているのに、はぐれたら大変だ。
モタモタとする芽依に那津は短くため息をついて
「ったく…相変わらずトロい女だな」
嫌味を言いながらも、少し強引に芽依の手を引いて歩き出した。
『…トロくて悪かったわね』
掴み方こそ強引だったものの、握る力は優しくて
(…全然痛くない…。)
そのおかげで、なんとかはぐれずに目的地に到着した。
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