テキストサイズ

華のしずく~あなた色に染められて~

第2章 二

―あの男が泣いている。私の躰を欲しいままに穢し、思いどおりにした男が!
 信成にとって、信じていた叔父に裏切られたという事実は、よほど彼の心を責め苛んだに相違ない。
だが、下克上の今の世、家臣が主君を殺し、親子や兄弟で殺戮を繰り返すのは別段珍しいことではない。室町幕府以来、連綿と続いてきた足利将軍家の権威も失墜し、これまでの価値観は何の意味も持たなくなった。力あるものが弱き者に取って代わる新しい時代が始まりつつある。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ