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華のしずく~あなた色に染められて~

第6章  雪の華~華のしずく~

「姫さま、ご挨拶を―」
 傍らの柏木がそっと耳許で囁き、徳姫は慌てて、言葉を紡ぎ出す。しかし、その声は緊張のあまり、小刻みに慄えた。
「―この度はお初にお眼にかかり―」
 それでも何とか徳姫が述べようとしているのを、突如として神経質そうな声が遮った。「良い、長旅で姫もさぞお疲れであろう。長口上の挨拶なぞは不要なこと。お部屋でゆるりと休まれるが良い」
 信晴は吐き捨てるように言うと、茫然としている徳姫を後に残して立ち去った。

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