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華のしずく~あなた色に染められて~

第30章 【剣(KEN)~華のしずく~】 闇に喚ばれし者

―棄てられる前に、自分から棄ててやるんだ。 言い訳するように言い、浅太はハッとした。龍伍の表情が変わっている。切れ長の美しい双眸が細められていた。
 こんな時、龍伍の怒りは海よりも深い―。 浅太が思わず後ずさった。
「浅太、お前、少し喋り過ぎたようだな」
 龍伍が腰の刀を抜いた。武士の生まれ育ちでもなく、これまで剣など持ったことさえない、扱い方さえ知らぬはずの龍伍の手に、最初からその刀はしっくりと馴染んでいた。まるで、端から、いや、ずっと以前、はるか昔から彼の手に収まるべきことが決められていたかのように、その長剣は彼のたなごころの中に当然のこととして存在していた。

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