
禁断兄妹
第64章 聖戦②
「ねえお姉さん、萌の容態はどう?
さっき目も開けたし、声も聞こえてたっぽいよね。命には別状ないよね?」
「詳しいことは精密検査をしないと何とも言えませんが、呼吸も血圧も異常ではありません」
まだ安心はできないけれど
危機的状況ではないと感じられる落ち着いた声に
思わず安堵の息が漏れた。
「病院まで何分くらい?」
「十分くらいです」
「近くて良かった。
なあ頼むよ、本当に、本当に。萌を助けてくれよ」
「はい」
俺と看護師がやり取りしている間も
柊兄は魂が抜けたような顔で
ぼんやりと
萌だけを見つめている。
───愛してるさ。こんなにいとおしい生き物を、俺は他に知らない───
三人で食事をしたのは
つい三日前の
こと
萌はころころとよく笑い
きらきらとした瞳で
柊兄を見上げていた
柊兄は
溢れるような愛情を隠しもせず
微笑みながら萌を見つめ
絶えずその頭を撫でては
薔薇色の頬に触れていた
仲睦まじい二人の姿が
まだはっきりと
胸に残っているのに
こんな二人の姿は
切なくて
やりきれない
俺はそっと
前に向き直った。
