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無垢な姫は二度、花びらを散らす~虫愛ずる姫君の物語り~

第2章 壱の巻

 従一位左大臣藤原道遠、この平安の御世にあってもう久しく政界で重きをなしてきた藤原宗家の現当主である。温厚な人柄で知られていたが、自分の政治生命のためなら、どこまでも冷酷非情になれるといった恐るべき一面を持っている。
 もっとも、公子は父の表の顔しか知らない。穏やかで、およそ誰にも―使用人でさえ声を荒げたことのない優しいひとだと心から信じている。

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