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無垢な姫は二度、花びらを散らす~虫愛ずる姫君の物語り~

第6章 伍の巻

 一刻ほど二人で琵琶と琴を合わせた時、公之がふっと琵琶をかき鳴らす手を止めた。
 琵琶を傍らに置いて、庇近くまでゆくと、そっと御簾を巻き上げる。
 菫色の夜空には銀色の月が掛かっている。
 清かな光を投げかける十六夜の月は現のものとも思えぬほどに幻想的で美しい。
 庭の石が月光に濡れ、光り輝き、がまずみのつぶらな紅い実が夜陰にほの白く浮かび上がっている。

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