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無垢な姫は二度、花びらを散らす~虫愛ずる姫君の物語り~

第6章 伍の巻

 虫の音もかすかになったことが秋の深まりを告げるある夜、突如として公之が一人で訪れた。
 いつもなら惟明(これあき)という従者を連れて馬でやって来るのに、今日は伴も連れず単騎でやって来たらしい。
 それにしても、公之がこんな夜分に訪れるのは初めてのことであった。これまでは昼頃にふらりと訪ねてきて、半日ほどゆっくりと寛いだ後、夕刻には帰ってゆくのが常であった。

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