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さようならも言わずに~恋は夢のように儚く~

第2章 壱

 いつも横眼で見るようにして通り過ぎていたため、娘の顔をこのようにまじまじと見たことがなかった。ひとめ見て、美しい娘だとは思っていたけれど、今、眼にした彼女の美しいこと!
 透き通るような雪の膚に、冴え冴えとした黒い瞳が潤んだように輝いている。唇はほのかな桜色で、例えるなら、そう―、この白粉花(おしろいばな)のように可憐で瑞々しい。
 嘉門は柄にもなく頬が熱くなるのを感じて、思わず手にした栞を握りしめた。

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