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さようならも言わずに~恋は夢のように儚く~

第2章 壱

 あの娘を初めて見たのは、もう、どれくらい前のことになるだろう。そう、あれは忘れもしない三年前の初夏のこと。江戸が梅雨入りしてまもないある日のことだった。
 その日、嘉門は通い慣れた町の道場からの帰り道で、突然の驟雨に遭った。道場を出たばかりのときは小降りであったのに、花やの前に差しかかった辺りから本降りになり、立ち往生してしまった。慌ててこの店の軒先に駆け込んだ嘉門が空を恨めしげに見上げていたときのことだ。

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