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来世にて

第3章 前世 女の戦支度

「そろそろ、お暇つかまつります。帰蝶さまごきげんよう。」

涼やかな笑顔を向けて光秀が腰をあげる。

「光秀どの、またいらしておくれ。珍しき菓子とともにな。」

「帰蝶さまのお気に召すものを、気にとめておきますゆえ。」

楓は見送りに光秀と共に部屋を出た。
帰蝶の部屋から離れたところで、光秀は振り向き楓を見つめた。

「辛い勤めをされてはおらぬか?」

楓は目を見開いた。そしてすぐに目を伏せ

「そのようなことは、なにも」

「表でも噂になっておる。楓どのがお屋形さまのお手付きになったのではないかと。」

楓は顔をあげ、光秀を見つめた。

「お手付きでは御座いませぬが‥‥」

そして顔を伏せ、次の言葉をいいよどんだ。
さすがに、光秀に道三から夜伽の手解きを受けているなど言えず、知られたくもなかった。
いいよどむ楓に何かを察したのか

「いつでも力になるゆえ、話したくなったら頼って参れ。」

そして眩しい笑顔を残して、立ち去っていった。

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