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花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~

第13章 山茶花~さざんか~ 其の参  

 そう言うと、おつなはカラカラと笑った。
―さあ、何でだろうねえ。ま、他人様が言うように、単に男と寝ることが好きなだけなのかもね。
 と、うそぶいて見せたけれど。
 それが、おつなの本心ではないことは、千汐にはすぐに判った。
 そのときのおつなは随分と遠い眼をしていた。まるで過ぎ去ったはるかな昔を愛しむような、懐かしむようなまなざしだった。
 ああ、この人もまた、他人には語れぬ昔をその背に背負って生きているのだな。

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