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花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~

第13章 山茶花~さざんか~ 其の参  

 男はむろん、びた一文残してはゆかなかった。むろん、事を済ませていないのだから、それは仕方ない。千汐が口惜しかったのは、銭を得ることができなかったからではなかった。
 ただ、自分があまりにも惨めで哀れだったのだ。たったひと握りの銭で買うにも値しない自分の身体―、それは、そのまま自分という人間を否定されたも同然だった。

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