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花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~

第13章 山茶花~さざんか~ 其の参  

 安平太は曽太郞を〝若旦那〟ではなく、昔のように〝坊ちゃん〟と呼んだ。普段から無口なこの老人は余計なことは一切喋らない。それでも、女房と一人娘にも早くに先立たれた彼は、曽太郞を実の孫のように可愛がってくれた。
 商いにかまれてばかりで忙しい父になり代わり、子どもだった頃、竹とんぼを器用に作って一緒に遊んでくれたのもこの安平太であった。その頃、安平太は曽太郞を〝坊ちゃん〟と呼んでいたものだ。

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