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花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~

第10章 花いかだ 其の参

 このような紅い月を、弥助はまだ一度として眼にしたことはない。煌々と輝く紅(くれない)の月は確かに美しくはあったけれど、その美しさは凄惨な雰囲気を漂わせている。
―昔から、あまりにも美しすぎる月には魔が潜むというよ。
 幼い頃、祖母が語り聞かせてくれた話がふっと脳裡を掠めた。
 ふいに、胸の奥がざわめいた。あの妖しく煌々と地上を照らす月のように、心の底が烈しく波立っている。

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