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花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~

第8章 三つめの恋花  桜いかだ 其の壱 

 あらかじめ、豆腐にかけられていた醤油には柚の刻みが乗っている。それらがほどよく滲みて、美味い。
「―この間の男、三笠屋の若旦那はあれからどうなった?」
 唐突に切り出され、おれんは面食らったようだ。
 短い沈黙が落ちる。その中に弥助は不自然なものを感じ取った。
「やっぱり、まだ来てるんだな」
 念を押すように問うと、おれんは漸くそっと頷いた。

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