テキストサイズ

花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~

第8章 三つめの恋花  桜いかだ 其の壱 

 にこやかに問われても、どうもこのような店にはとんと縁がないため、言葉さえ出てこない。弥助が行くのはせいぜい一膳飯屋が関の山なのだ。
 しかも、すぐ眼前にあの女―ここ数日というもの、ずっと頭から離れなかったおれんがいるのだから、尚更、緊張してしまうのは無理からぬことだった。まるで黙(だんま)りになってしまったかのような自分が何とも情けない。
 おれんは弥助を見て、クスリと笑みを零す。
「それじゃア、今夜はあたしの奢りってことで、適当に決めさせて頂きますよ」

ストーリーメニュー

TOPTOPへ