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花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~

第5章 恋花二つ目~恋紫陽花~壱

 これからも、お民は兵助に長生きして貰わなければならない。兵太を失った哀しみから立ち直れたのも、良人のお陰だと思えば、尚更元気でいて欲しい。倅亡き今、お民の家族は亭主ただ一人であった。
 そんなことをつらつら考えているお民の耳を、威勢の良い声が打った。
「おい、何ぼんやりとしるんだ」
 途端に、お民の顔がほころんだ。
「お帰り。ごめんよ、つい考え事をしちまってさ」

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