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花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~

第1章 恋花(こいばな)一つ目~春の夢~壱

 思えば、川に身を投げる前夜、おみのは清七に取り縋って、こう訴えのだ。
―太助がいないと、私は駄目。
 そのひと言が恐らくは、おみのから発せられた、たった一つの叫び―救いを求める声であったろうに、清七はその叫びに気付いてやることができなかったのだ。
 あの時、清七は、ただおみのを抱きしめてやることしかしなかった。

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