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近くて遠い

第1章 雨に打たれて

いけない。

この財布はこの人のもの。


でも…?

こんなに酔っぱらっているのだからきっと目覚めたときには記憶がないはず。

ならその時、財布が手元になかったとしても
決して盗まれたなんて思わないんじゃないか。



今、このチャンスを逃したら、私は?



いけない、そんなこと考えるのは、心の汚れた人だけ…



懸命に自分の邪念を払おうと努力するが


雨に打たれる財布が気になって仕方がない。



少しだけ…

お金を抜き取って…

それから交番に行けばいいんじゃないか。


少しだけ…


本当に明日まで生きる分だけでいいの……




私は
ゆっくりと


財布に手を伸ばした。

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