テキストサイズ

空の記憶~あなたと私と彼、それから~

第17章 番外編第二話【薔薇ものがたり】~或る画家の絵~

 伊右衛門の下宿に来るようになってから、はや二週間余りが過ぎていた。朝からの雨続きで、肌寒ささえ感じるような陰鬱な天気だった。そのせいか、ただですら陽当たりの悪い伊右衛門の部屋は昼でも薄暗く、裸電球の黄色が余計に寒々しく見えた。
 部屋の片隅の小さな丸テーブルの上に、備前焼に活けられた数本の薔薇がある。天鵞絨(ビロード)のような真紅の色がモノトーンに沈んだ室内でひときわ鮮やかに際だっていた。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ