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空の記憶~あなたと私と彼、それから~

第11章 第四話【縁~えにし~】 早春賦

 そして、亮平がしていたように、米と酒を海に注ぎ、祈った。亡きひとの魂が安らかに永久の眠りにつくことを心を込めて願った。
 今日も出勤前にここへ来ていたのは、そのためであった。
 幸は改めて浩三を見つめる。優しい眼も、紳士然とした穏やかな態度も以前のままだ。
―いけない。これ以上見ていたら、泣いてしまう。
 幸は不覚にも零れそうになった涙を瞼の裏で乾かす。こんな自分には最早、浩三の前で泣く資格すらない。

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