テキストサイズ

空の記憶~あなたと私と彼、それから~

第11章 第四話【縁~えにし~】 早春賦

 幸は返す言葉もなく、うつむいた。七年前、女学校の寄宿舎に戻るために実家のある小さな町の港を出立して以来、幸は両親にも弟にも逢ってはいない。家を棄て名を棄て、婚約者すら棄てて亮平の妻として生きる道を選んだ時、男爵家の娘であった京極幸は死んだのだ。そう思って、これまで生きてきた。そして、二年前、亮平に拉致され海辺の家に戻ってからは、岩田浩三の妻であった岩田幸はいないものと思ってきた。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ