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空の記憶~あなたと私と彼、それから~

第8章 第三話【波の音】 予感

 何しろ、浩三ときたら、放っておけば、どんな恰好をしても平気というほど身なりには頓着しないのだ。それは結婚前から変わらない彼の性分である。こんな大らかなところも幸には魅力なのだけれど、結婚して妻となれば、身なりに構わない良人を妻として放っておくわけにもゆかない。出世にもおよそ欲のない彼は二十九歳になって漸く講師から助教授になった。有り体に言えば、遅すぎる昇格である。それでも、講師時代と違い、人並みに服装にも気を配るようになったのは良人にとっては良い傾向だと、幸はひそかに歓んでいた。

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