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月琴~つきのこと~

第3章 第二話 【月琴~つきのこと~】 一

 だが、惜しむらくは小文の惚れた男は番頭でも手代でもなく、下男であった。同業の呉服商たちからは凄腕と一目置かれている惣右衛門も三人の娘たちには甘い、子煩悩な父親であった。
 が、流石の惣右衛門も今度ばかりは甘い顔をすることはなかった。下男と言えば、庭先で薪割りをしたり風呂炊きをしたりの力仕事や雑用ばかりをする下っ端だ。いかに何でも大切な娘をくれてやることは叶わない。

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