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~多重人格パートタイムラヴァー・ガール~

第83章 風とともにはじまる⑤

ケンさんのいた箱ヘルと比べると、風俗業界の新勢力であるデリヘルは、だいたいにおいて、どこのお店も自由な気風らしい。
お客さんもそういうなかで素人っぽさのある女の子を求めているようだと。

女の子の働きやすい店作りを考えていたボビーさんとケンさんは、デリヘルの自由な気風に、箱ヘルの管理組織のいい所を取り込むようにして、「ラピスラズリ」を作っていったらしい。
「自由過ぎると、女の子は迷っちゃうんだ。ちゃんと導いてやらないとね」
ケンさんはそんな風に言った。

はじめから、そういうことを教えられてもボクには難し過ぎて具体的にどうしているのか理解ができなかった。

それでもボクが、ケンさんの話に頷くと

「でも、とにかくは信頼関係が無いと、何もはじまらないんだ」

とケンさんは言った。

信頼関係。そんなものがボクに、女の子たちとの間にできるのだろうか?

どうやら、それこそがボクがこれから身につけていく目標だと思った。

ボクはまずは、ドライバーとして仕事をはじめることになった。ドライバー業務がわかないとデリヘルの仕事はできない。それが基本だということだった。

「はい。これが今日からの相棒や。彼女のように大事にするだ。車に乗るのが久しぶりみたいだから、まずは今から大阪の難波まで行ってタコヤキ買って来て。高速じゃなくて、下道で行って帰っておいで。こんなに乗りやすい彼女はなかなかいないぞ」

ボクは日本一うるさいという、プリウスの鍵をケンさんに渡された。

そして、次の日は姫路駅の持ち帰り駅そばを買いに行かされた。


車の窓を開けて走ると、風がとても気持ち良かった。
そういえば、水商売の「水」は水を使い、売上が水ものな所から来るとよく言われているけど、
水商売に対して、風俗業界のことを「風」と言うけど、女の子が風のようにフラフラと店を変わったりするから風というんだとケンさんに教えられた。

結局、ボビーさんもケンさんも女の子の話ばかりだ。
結局女の子。女の子たちとどう接していくか。
それが風俗なんだな。
プリウスの窓から入る風を浴びながら、ボクはそう思った。

車にはしっかり慣れてきた。



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