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変人を好きになりました

第7章 古城のシンデレラ

「婚約、おめでとうございます。式はいつ挙げるの?」

「それは」
 違うんです、と言おうとする私を空良くんが制した。
「まだ決まってないよ。急ぐこともないと思ってね」


 え?
 どうして、黒滝さんにも嘘を吐くの?
 黒滝さんは空良くんを振り返って、鋭い目つきで睨んだ。

「そんな怖い顔しないでくれよ。柊一だって里香さんがいるんだから」

 空良くんはベッドに座ったまま足をぱたぱたと動かす。なんだか、すごく楽しそうだ。
「そうよ、柊一さん。私たちの式だってもうすぐなんだから」
 真っ赤な唇に赤い爪の人差し指をあてながら、里香さんが首を傾げて微笑んでみせた。

「式って、どういうことですか?」
 思わず聞いた声は部屋中に響き渡るほど大きいもので自分でも驚く。

「結婚式よ。私たち、来月には籍を入れるの」

「うそ……」

 黒滝さんが結婚。
 そんなこと信じられない。信じられないというより、信じたくない。


「へー。おめでとう」
 空良くんが立ち上がって黒滝さんの背中を叩く。
 黒滝さんは無表情で突っ立っている。
 里香さんが黒滝さんの耳元でなにか囁いた。

「ありがとう。空良。君たちも幸せに」
 何言ってるの?感情のこもっていない黒滝さんの言葉。
 どうして?
 さっき私を抱きしめたのはなんだったの?
 私の頭がおかしな幻覚を見せたの?

「古都さんも」

 黒滝さんはそう言って、私に微笑みかけた。黒滝さんらしくない笑み。

「ふたりの邪魔しちゃ悪いから、早く行きましょう。ホテルの用意はできてるわよ。じゃあ、失礼しますね」


 里香さんにひっぱられるように黒滝さんが部屋から出ていく。
 そんな大人しい黒滝さんは黒滝さんじゃない。
 いつもみたいに理屈を並べて女の人を信用しないで、人間が嫌いな黒滝さんはどこに行ったの?

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