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変人を好きになりました

第6章 行き交う想い

 私は苦笑いで息を吐き出した。
「見た目の問題じゃないです。空良さんは優しいし、明るいから……」
「から?」

 私は何を言おうとしているのだろう。

「から……一緒にいて楽しいんです。それだけです」

 黒滝さんの顔を見れない。目を閉じて心を落ち着かせる。
 黒滝さんが動く気配がした。応接間から出ていくのだろうか。


「口ではなんとでも言えるのが人間だ。そもそも女は信用していない」
 黒滝さんの喋る息が首元にあたって目を開けると私の座る椅子を後ろから抱きしめるように腕を回して、私の顔を覗き込むようにしている黒滝さんの顔がすぐそこにあった。
「し、信じてもらわなくて結構です。それに、里香さんのことは信用してる……んーーーっ」
 里香さんの名前を出すと突然黒滝さんの手で口元を塞がれた。
「分かったようなことを言わないでくれないか」


 息苦しい。
 私は黒滝さんを睨みつけた。涼しげな瞳に睨み返される。
「純粋そうな顔しときながら、そうやって男を煽るのも上手い」
 黒滝さんが手を離すと、一気に空気を肺に送り込んでごほっとむせ返った。
 こんな酷いことを言ったりする人だとは思わなかった。

「何、言ってる……んですか」
「無意識ならそれはそれで悪いことだ。男受けする容姿をしてる癖に無防備すぎるのはどうかと思う」
「どうでもいいから、離れて下さい」

 黒滝さんに椅子越しに抱きしめられているような形が気持ち悪くて仕方がない。
 あんな人を抱いた身体で触れないでほしい。

「なぜ?」
「黒滝さんが……嫌なんです」
 声が震える。
 どうして?
「……そうか」
 黒滝さんがあっさり納得した。
 私から離れるとどこかに行こうとする。

 私は思わず立ち上がった


「どうしてですか?」
 黒滝さんの足が止まる。

「どうして……あんな人と付き合ってるんですか? どうして、庇ったりしたんですか? 私……」

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