
変人を好きになりました
第21章 初恋の相手
外に出ると思ったよりも本降りで手にしていた傘を開けようかどうか迷ったけれど、そんなことしている時間すら煩わしくってクロタキさんがどっちに行ったのかきょろきょろと悪い視界で見渡す。
もうタクシーに乗って行ってしまったかもしれないと思いかけた時、雨に気付いていないように平然とゆっくりと歩くクロタキさんの後ろ姿を見つけてなりふり構わず走り出した。
眼鏡に雨の滴が落ちて視界がぼやける。少しくらい大丈夫だと思い、眼鏡を外してパーカーのポケットに突っ込んだ。
「待って……っ」
10メートルほど先を歩くクロタキさんを呼び止めようとしたとき、大きな雨粒が右目にぼとりと落ちてきた。
キラキラと輝く雨の滴が見えたのと同時に視界を一瞬失った。
「っ……!」
息を呑む。
なんてこと、してたんだろ……。
右目を開ける。左右の視力が極端に違うせいでクロタキさんの姿はよく見えないけれど、確かに見える。
私はクロタキさんのほうに向かって走った。
「黒滝さん!」
絶叫に近い叫び声を出しながら後ろから抱きつかれたら誰だって驚くだろう。彼も例外じゃなく、宇宙人でも見たような顔をして私を見ているに違いない。よく見えないのが残念だ。
こんという軽い音と一緒に持っていた傘が地面に投げ出された。
「古都さん?」
抱きつかれたまま呆然としている。私はどうすればいいのか分からずに彼を抱きしめる腕に力を入れる。このまま離れたくない。
「も、もう……嫌です」
鼻水が流れる。涙だって鼻水の何倍もの勢いで流れ出している。雨と鼻水と涙でぐしょぐしょになった顔を腕で乱暴に拭った。
「え?」
「もう勘違いし合うのは嫌なんです」
雨足が一層強まって、辺り一面滴が地面に落ちる音で支配されているのに、黒滝さんが息を呑んだ音が聞こえた。息も止まったみたい。
息だけじゃない、何もかも止まった。
私の呼吸も、黒滝さんの呼吸も、雨の音も、空気だって微動だにしない。
私と黒滝さんの心臓だけが動いているのを感じる。
もうタクシーに乗って行ってしまったかもしれないと思いかけた時、雨に気付いていないように平然とゆっくりと歩くクロタキさんの後ろ姿を見つけてなりふり構わず走り出した。
眼鏡に雨の滴が落ちて視界がぼやける。少しくらい大丈夫だと思い、眼鏡を外してパーカーのポケットに突っ込んだ。
「待って……っ」
10メートルほど先を歩くクロタキさんを呼び止めようとしたとき、大きな雨粒が右目にぼとりと落ちてきた。
キラキラと輝く雨の滴が見えたのと同時に視界を一瞬失った。
「っ……!」
息を呑む。
なんてこと、してたんだろ……。
右目を開ける。左右の視力が極端に違うせいでクロタキさんの姿はよく見えないけれど、確かに見える。
私はクロタキさんのほうに向かって走った。
「黒滝さん!」
絶叫に近い叫び声を出しながら後ろから抱きつかれたら誰だって驚くだろう。彼も例外じゃなく、宇宙人でも見たような顔をして私を見ているに違いない。よく見えないのが残念だ。
こんという軽い音と一緒に持っていた傘が地面に投げ出された。
「古都さん?」
抱きつかれたまま呆然としている。私はどうすればいいのか分からずに彼を抱きしめる腕に力を入れる。このまま離れたくない。
「も、もう……嫌です」
鼻水が流れる。涙だって鼻水の何倍もの勢いで流れ出している。雨と鼻水と涙でぐしょぐしょになった顔を腕で乱暴に拭った。
「え?」
「もう勘違いし合うのは嫌なんです」
雨足が一層強まって、辺り一面滴が地面に落ちる音で支配されているのに、黒滝さんが息を呑んだ音が聞こえた。息も止まったみたい。
息だけじゃない、何もかも止まった。
私の呼吸も、黒滝さんの呼吸も、雨の音も、空気だって微動だにしない。
私と黒滝さんの心臓だけが動いているのを感じる。
