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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第15章 王宮という名の伏魔殿

「淑媛、そなたは今朝、既に大妃さまのおん許にはご挨拶に参ったそうだな」
 温嬪が紅すぎる唇を笑みの形に象(かたど)る。
「流石に、町中で主上さまのお心を籠絡し、まんまと後宮入りするほどの狡賢い女狐はすることが違いますね」
 恭嬪が開いた扇の影から意地悪そうな笑みを浮かべた。
「さよう。我ら妃よりも大妃さまのご機嫌を取る方が千倍も利口というものだからな。されど、ここは、そなたが生まれ育った市井とは違う。身分が賤しいからというのは無礼を致す言い訳にはならぬことをよく憶えておくが良い」
「温嬪さまは、後宮には後宮のしきたりがあると仰せなのだ」
 恭嬪が胸を反らして言い放った。

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