テキストサイズ

側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第6章 崔家での日々

 その日は朝から灰色の雲が漢陽の町に低く垂れ込めていた。そろそろ四月も終わりに近づいているというのに、まるで春先に戻ったかのように冷える朝であった。
 珍しく朋輩の一人から声をかけられたと思ったら、何と〝旦那さま〟の部屋に薬湯を届けるようにと言いつけられてしまった。
 あまり気は進まなかったが、断る理由もないし、ここで断ってしまえば、彼女たちとの溝がますます深くなる。仕方なく、時間を掛けて煮出した薬湯と口直しの砂糖菓子を小卓にのせて運んだ。
 母屋の前まで来ると、短い階(きざはし)を登ったすぐ先に両開きの扉が見えている。ここが崔氏当主の居間であった。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ