側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】
第4章 偽りの別れ
「第一、そなたが女に見えていなければ、あんな愚かなふるまいには及ばなかった」
トスは殆ど聞き取れないほどの小声で呟いた。再び短い沈黙が落ち、トスは自らを励ますような表情で続けた。
「それから、これを」
キョンシルの前に差し出されたのは、先刻の簪。銀製の小さなもので、先端には同じく銀の玉状のものが付いており、桜の花が透かし彫りされている。さほど高価な品ではないことは判ったが、トスが絹店の用心棒を務めて得た金子で買うとすれば、高い買い物だったに違いない。
「気を悪くしないでくれ。この簪は婚礼の日、ソンニョに贈るつもりだった。とうとう贈らずじまいになってしまったが」
込み上げるものがあったのか、ここでトスは眼を伏せた。
トスは殆ど聞き取れないほどの小声で呟いた。再び短い沈黙が落ち、トスは自らを励ますような表情で続けた。
「それから、これを」
キョンシルの前に差し出されたのは、先刻の簪。銀製の小さなもので、先端には同じく銀の玉状のものが付いており、桜の花が透かし彫りされている。さほど高価な品ではないことは判ったが、トスが絹店の用心棒を務めて得た金子で買うとすれば、高い買い物だったに違いない。
「気を悪くしないでくれ。この簪は婚礼の日、ソンニョに贈るつもりだった。とうとう贈らずじまいになってしまったが」
込み上げるものがあったのか、ここでトスは眼を伏せた。
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