愛して、愛されて。
第6章 狂気の陰
周りの誰かに聞かれないように、ボソリと呟かれたその言葉は、
俺にはしっかりと届いた。
目を見開いたまま、俺から離れた伊勢谷先生を見上げる。
だけどそこには、いつも通りに微笑む、いつも通りの伊勢谷先生がいて。
まるで、俺を舐めるように見つめていた。
―――なんだ、これ。
気持ち悪い。さっきと同じ気分だ。
『村尾…、奏太。』
さっき聞いた不気味な声を思い出した。
まさか。サーっと引いていく体の熱が、俺の恐怖を掻き立てる。
まさか、まさか…
さっきの声も、感触も、全部伊勢谷先生のせい?
固まる体。
警戒心が極限まで登り詰めていく。
けれどそれは、
次の伊勢谷先生の言葉で、一気に解放された。
「なんてね。まぁ次寝たら…問題集2冊のお仕置き、受けてもらうけどね。」
「…え…」
――――キンコン。
瞬間、タイミング良く教室に響いた終わりのチャイムに、
伊勢谷先生は教卓へと戻り、いつもの…
生徒に信頼されている笑顔で、
「じゃあ、終わろうか。」
そう呟いた。
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