テキストサイズ

短編集

第10章 『祖母の夏』

真夏のある日。

突然、戦争は終わった。

彼女は町に帰ることになった。

最後の日、振り返ると稲荷の山の緑と紺碧の空がそこにあった。

少し背が伸びた稲穂が揺れていた。

風が吹く。

その向こうに男の子が立っていた。

さっぱり、意味がわからない、といった顔をして。

別れの意味もわからない狐の子は、手を振ることも、涙を流すこともできなかった。

哀しい狐の子。

ずっと独りのはずれもん。
彼女の夏の記憶。

懐かしい想い出。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ